近未来スポーツCYBER BOCCIAで2020年パラリンピックに新感覚のエンタメを

1 → 10(ワントゥーテン)代表取締役の澤邊芳明氏がパラスポーツをエンタメに変換した『CYBER SPORT』シリーズを開発し、これまでにないプレイの見せ方によってパラスポーツへ注目が集まっている。そのなかでも特に注目を浴びているのが『CYBER BOCCIA(サイバーボッチャ)』。そこで今回は澤邊氏にCYBER BOCCIAの開発ストーリーを伺った。

 

パラスポーツボッチャとは?

「ボッチャ」とは、ヨーロッパで考案された重度脳性麻痺者もしくは同程度の四肢重度機能障がい者のためのスポーツで、 パラリンピックの正式種目でもある。このスポーツは、ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに向かって、それぞれ6個のボールを投げ合うことで、 相手よりいかに多くのボールをジャックボールに近づけられるかを競うもの。障害によりボールを投げることができなくても、ランプ(勾配具)を使い自分の意思を介助者に伝えることができれば、 参加できるスポーツだ。

―起業からボッチャに出会うまでのお話をお聞かせください。

僕は18歳の4月初めに事故に遭い、大学のキャンパスライフを見ることなく入院しました。その期間で自分が何をやりたいかを見つけることができたので、まさにこのできごとが人生のターニングポイントでしたね。そして大学に復学してプログラミングを学んでいた頃、インターネットが登場したんです。波が来ていたデジタルクリエイティブならやりたいことができるし、趣味でHTMLも触り始めてHP制作もしていていました。ちょうどそのころに朝日広告賞に2年連続入賞できたんです。それをきっかけに、97年に起業しました。そんななか、“車椅子の起業家”とメディアに取り上げられ、勝手にストーリーを作られてしまい、これはまずいなと思いました。それからは、取材を徹底的に断り、自分の境遇は一切出さずに、デジタル広告の世界で勝負してきました。

―遠い存在であったパラリンピック関連の事業を始めたのは何故ですか?

弊社副社長の高場秀樹氏より「パラリンピックサポートセンター」のオフィスデザインコンペの話をいただき入札に参加したんです。ただ、入れ物としてのオフィスをデザインするだけではもったいない、2020年に向け行動を起こせる場所にできないかと思い、「i enjoy!」というキーメッセージとグラフィックも作ったところ、喜んでもらえて。その繋がりでパラリンピックサポートセンターの顧問や、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のアドバイザーとなり、様々なお手伝いをさせていただいています。僕にしかできない領域と感じてます。

―その流れでボッチャに着目されたと。

パラスポーツをもっと身近なものにしたいという想いから、ボッチャをテクノロジーと掛け合わせて、誰もが楽しめるスポーツとして開発しました。「パラスポーツをエンタメにする!」なんて、一歩間違えたら炎上する可能性もありますけど、やるべきだ!と思いました。

―すごい挑戦ですね。

ボッチャはパラスポーツのみの競技ですが、誰にでもできる競技なので、これをサイバー化して一般に理解してもらうのが一番わかりやすいと思いました。東京パラリンピックには「2020年に観客席を満席にできるのか」という課題があるので、過去と比較して盛り上がった状態にしたい。その使命感を凄く感じたので、挑戦しましたね。ボッチャは重度障がい者向けのスポーツですが、戦略性やゲーム性もあるのでテクノロジーを入れればもっと盛り上がるし、エンタメ化しやすいと考えてサイバー化したのが去年です。

サイバーボッチャの開発からみる未来のバリアフリー

―サイバー化する上で苦労されたことは何ですか?

暗い状態で競技を行うので、計測センサーがボールの色を感知できなくて距離が測れなかったんです。でも、背景を一瞬白くするというエンジニアの画期的なアイディアで、感知できるようになりました。サイバーボッチャは映像や音楽で魅せる演出の高揚感がありますし、お酒が入ればさらに盛り上がりますよ。今後常設の展開もいくつか決まっていますし、利益の10%はボッチャ協会に寄付するという仕組みにもなっているので、このまま拡大して2020年以降も支援に繋がって行けば良いと思います。

―東京パラリンピックまでに実行したいことは。

1→10ホールディングスの代表として、「現実と仮想の融合」というグランドデザインを持っているので複合現実の世界を発展させたいです。この20年僕がやってきたのは「身体性の拡張」で、自社作品は体を動かすモノが多いです。人の体験を考える時に、物量の感覚を見るのと実際やるのとでは全然違うので、より強い体験をどう作っていくかに興味があります。パラスポーツの普及もそれとシンクロしていくと思うので、融合を果たしていくとバリアフリーができるんです。例えば寝たきりの人でもVR眼鏡をかけることで、実際にブティックでショッピングができるとか。いろんな制限が取れた新しいバリアフリーをやりたいですね。テクノロジーの進化でバリアフリーが進んでいくことを期待していますし、楽しく解決できるのが一番の理想です。

―そうなればバリアフリーに対する考え方も変わってきますよね。

「障がい者との共生」なんて言っても堅いですし、同じ人間なんだからもっと気楽にみんな楽しくやればいいのにって。“もし明日宇宙人が攻めてきたら”、“隕石が落ちてきたら” と考えれば、ほとんどのことなんてどうでも良くなってしまうはずです(笑)。今できることを精一杯やって、結果として未来ができてくればそれで良い。パラスポーツやバリアフリーの概念を打ち破って難しく考えず、どんどん解決していければそれが一番だと思っています。

PROLOFIE

1→10HOLDINGS, Inc. 代表取締役社長 澤邊 芳明(さわべ よしあき)| 1973年東京生まれ。京都工芸繊維大学卒業。1997年にワントゥーテンデザインを創業。現在は、企業グループ ワントゥーテンホールディングスを率いる。ロボットの言語エンジン開発やデジタルインスタレーションなどアートとテクノロジーを融合した数々の大型プロジェクトを手掛けている。公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザー、一般社団法人日本財団パラリンピックサポートセンター 顧問、一般社団法人超人スポーツ協会 理事等としても活躍している。

1→10HOLDINGS, Inc .(ワントゥーテンホールディングス)
京都・東京・シンガポール・上海を拠点とし、広告クリエイティブ、ロボット/AI 、IoT/商品プロトタイプ、空間演出/エンターテインメントの 4 事業を展開する、9 社からなる企業グループ。カンヌ国際広告祭、文化庁メディア芸術祭、グッドデザイン賞等多数の賞を受賞。タグラインは、“IGNITE EVERYONE,UPDATE EVERYTHING”。クリエイティブと革新的技術で人々の心に火をつけ、あらゆることをアップデートする体験を提供している。