常に恋愛が作品のベース 漫画家・北崎拓先生インタビュー Vol.1

漫画『このSを、見よ!』などの“クピドの悪戯シリーズ”で知られ『月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~』を連載中の北崎拓先生に、大ファンを公言する江夏亜祐さん(バンド・エナツの祟り Dr./リーダー)がついに初対面しインタビュー!
北崎先生の作品のベースにあるもの、そして江夏さんとの意外な共通点とは?

漫画家の北崎拓先生

北崎拓先生

北崎先生との出会い

江夏亜祐(エナツの祟り):北崎先生とは、僕がコロナ対策でステイホーム中に思い切ってTwitterで話しかけた事がきっかけで交流をさせていただいているのですよね。

江夏:ついに今日はお逢いできて感激です。僕個人では聞きたいコトは死ぬほどあるのですけど(笑)、広く読者の方々に向けて、まずは先生が最初に漫画家になろうと思った理由や動機からお話しいただけますでしょうか?

漫画家になるまで

北崎拓:あんまり格好いい話でも何でもないのですけど。もともと漫画や絵は好きだったのですけど、高校時代に絵で食べていきたいなぐらいの感覚で。勉強が好きではなかったので、本当でしたら美術大学に行って、学校の美術の先生にでもなって、あんまり絵が得意じゃない子どもたちにも「課題を提出すれば赤点にはしないよ」みたいな適当な感じでやって、自分の絵を描きながら給料をもらって一生暮らしていけたらな、ぐらいの感じだったのですよ。

高校1年生のときに、漫画を投稿している先輩に「漫画を好きで描くのなら、投稿ぐらいしなきゃだめだよ」みたいなことを偉そうに言われまして。それはそうかもしれないと思いまして、高校2年生くらいから投稿してみたら、それがきっかけでデビューできたのです。

高校3年生になる頃にデビューしまして。高校生なので、本に自分の漫画が載ったらうれしいので、それで2本3本と描いて載せてもらっているうちに、受験勉強もしないので、大学にも落ちまして。

僕は兵庫の芦屋だったのですけど、ちょうどそのとき父親の仕事で九州に転勤してしまう事になり……。今さら九州に移ったってしょうがないし、東京の大学に行こうと思っていましたし、受かっても東京、落ちたら漫画家のアシスタントでもやりながら漫画家を目指すのもいいのかなと思って。

どっちにしても東京に行こうと思って東京に来まして。そしたら運よくまたすぐに連載をいただいたりしたので、そのまま漫画を描き続けてっていう感じです。行くところをなくして、漫画家で食っていくしかないなっていうくらいになってから、漫画家になろうと思ったような口ですよね。

江夏:憧れの漫画家さんがいて、そんなふうになりたい、とかではなかったのですか?

北崎:もちろん手塚治虫先生や石ノ森章太郎先生は大好きでしたし、僕らの世代で言うなら高橋留美子先生や好きな先生はいっぱいいましたけど、僕の性格的には自分の才能だけで食べていくみたいなものに対しておそれがありましたし、安定した収入じゃないっていうのもありましたし、学校の先生に本当はなりたかったっていうのはありました。

ただ漫画家になるって決めたからには何としても生き抜かなければですし、10年、20年先、常に今の流行りのものではなくて、10年後になっても読まれるものみたいな姿勢で漫画を描き続けたというのはあります。

常に恋愛が作品のベースに

江夏:流行りみたいな話でいくと、今の漫画ってわりと非現実的なものが増えたなってイメージがあるのです。10年前よりも。

北崎:異世界ものとか。

江夏:はい。そういうのが増えたなかで10年くらい経ちますかね。『このSを、見よ! クピドの悪戯 』や、テレビドラマ化もされた『クピドの悪戯 虹玉』『クピドの悪戯II  さくらんぼシンドローム』にしろ、それってありえないっていう話をずいぶん前からやられていたなっていうのがすごい。だから10年後の世界が見えていたのだなっていう感じはしますよね。

北崎:そんなことはないですけれども(笑)。ただ、基本的にそういう男女の恋愛の問題というのは、何年たっても、大昔であれ今であれ基本的には同じなので。もちろん僕自身も個人的には興味がありますし、もっと言うなら、興味はそこにしかないって言ってもいいぐらいで。

たとえば異世界ファンタジーでも何でもいいのですけど、そのときに興味があったとしても、10年後に果たして異世界ファンタジーに僕が興味あるかっていうと、それは判らない。いろんなジャンルの漫画を描いているのですけど、常に男女の恋愛がベースにあるような物語……男女の恋愛だけには限らないですけど……常に恋愛や、その結果としての家族などを描き続けたいな、とだいぶ前から思ってはいます。

江夏:僕も、基本的に9割9分が恋愛ベースでしか歌詞も曲も書かないです。僕もそこにしか興味がないと言うか。僕が初めて北崎先生の作品を読ませていただいたときに、そんなところに興味を持ったっていうのもあると思います。

北崎作品との出会い

江夏:最初に読ませていただいて知ったきっかけは『このSを、見よ! クピドの悪戯』*なのですね。僕は以前ライブ中に大怪我をしたコトがあって。ライブが終わって病院に運ばれて、全身麻酔の手術をして、そのまま2~3ヶ月入院したコトがあるのですけど。
そのとき怪我をしたのが偶然ですが左のお尻なのですよね(笑)。

北崎:なるほど(笑)。

このSを、見よ! 1巻 書影

*『このSを、見よ! クピドの悪戯』北崎拓
左尻にある変な形のアザ(スティグマ)に「全ての女を虜にできる力」があることを知り……!?
愛と欲望のコンプレックス恋愛コミック。

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江夏:『このS』のヒロインの千鶴ちゃんは女医ですが、僕も偶然にも女医さんに手術されたのですけど(笑)、ちょうど退院したときに、『週刊ビッグコミックスピリッツ』を読んだのです。ペラっとめくったスピリッツで『このS』に出会って、面白いなと興味がわいて。

その当時は僕のバンドのファンがまだ少なかったので、お客さんをどうやって増やしたらいいかなとか、例えばスティグマを自分が持っていたら何に使うだろうなっていうので興味がわいて、もしこんな魔法が自分も使えたらライブでもお尻出したのにな、全員ファンにしたのにな、とそんなコトがあったらいいなって思いながら、最初から単行本で読むようになったのです。

僕も基本的に恋愛の音楽しか書かないのですけど、僕のなかで先生の漫画の世界観と似ているのではないかなって自分で勝手に思っているような音楽を作っていまして。

切ないのだけど忘れられないっていう恋愛だったりとか、そういうところがすごく心地いいなって、読むたびに切なくなりながら、気持ちよく読めるというか、今後いつか一緒にお仕事ができたらいいなってずっと思っていて、それが長い年月を経て今日ついにお会いできて本当にうれしいです。

そのとき多分僕23、4歳とかだったのです。ちょうど『このS』の主人公と同じぐらいの年頃です。そのときに読んだものを今読み直すと、何回も読み直しているのですけど、読み直すたびに考え方というか、伝えたかったことって実はこうなんじゃないかなって毎回変わってくるのです。

北崎:この前いただいたCDやDVDは見させていただいています。

江夏:ありがとうございます。

意外な共通点とは?

北崎:僕の漫画が面白いって言ってくださって、関連性ってどこにあるのかなって思いながら聴いていて。エナツの祟りの代表的な曲の『バブリー革命 ~ばんばんバブル~』を聴いて、この曲と僕の漫画ってつながるところってあるのかなって思いながら聴いていたのですけど。

元気の良さでカムフラージュしていて、でも歌詞はバラードに近いですよね。全ての曲がそうと言ってもいいくらいの感じで。

失った恋や手の届かなくなった恋とか、そういったものを想う純情みたいなものが書かれていて、それをバラードにせず元気よく歌い上げてしまう、そういうスタイルなのかと思って。1曲バラードが入っていましたけど、それを聴くと判るわけですよね、今までのも全部これと同じじゃん、っていうか、根底が全部そうですよね。だからその辺りで気に入っていただいたのかと。

若いときは恋愛に対してポジティブな印象を持ちたがるものなのですけど、一度失恋をしたりすると、それが忘れえぬものになってしまって、それからいかにポジティブな恋愛をしようとも、ネガティブではないのですけど、表の明るさに対して、裏にある影とか悲しみとか、常に恋っていうものには引きずられるのかな、そこが追及されているのかなって感じがすごくしました。

江夏:そうですね、僕自身の興味があるっていうのも強いのですけど、恋愛って人間の永遠のテーマだなって思っていて。流行っているものとか変わっていくなかで、恋愛だけはずっとあるなって思っていて。

みんなが感じる若かったときの恋愛観を歳をとって聞くとまた違うふうに聞こえるというか……若いときにただ単純に振られて切ないときに聴いたら切なく聴こえるし、10年後に聴いた時に、ここがこうだったのだなっていうのが解る音楽や歌詞を書けたらいいなと思って音楽を作っているのですけど。

そういう意味で言うと、勝手に世界観が近いと思って応援させていただいているというか、本当に純粋にただのファンで楽しく読ませていただいています。

すごく参考になるというか、あんまり人と恋愛の世界観って話さなかったのですけど、いろいろな人の恋愛相談を受けることはあったのですが、なんで!? みたいなことがいっぱいありながら、人の恋愛も自分の恋愛も俯瞰で見ていたのです。

解りあえる世界観を持っている人っていうのがなかなかいなかったのですけど、そのときに北崎先生の作品と出会ってすぐに大ファンになって。持っている本はメンバーにも貸して読んでいただいているのですけど。これ読むと僕の世界観が解ると思うからって(笑)。文章で読むよりも漫画のほうが読みやすかったりするのだろうと思って、読んだらきっと似た世界観が解るからと、周りの方々に読ませたりしているのです!

北崎拓先生(左)と江夏亜祐さん(右)

北崎拓先生と念願のバブリーポーズを決める江夏亜祐さん

次の記事は10月9日公開! 北崎先生に画家のお仕事や作品づくりのリサーチ、そして今後について、さらに詳しく伺います。お楽しみに!

NEWS 今回のインタビューがきっかけで、北崎拓先生とエナツの祟りのコラボが決定!

エナツの祟りの新曲『無敵シュプレヒコール このSを、聴け!』(11月11日配信リリース)のジャケットとMVに北崎拓先生のイラストが!
詳細はこちら

PROFILE

北崎拓(きたざき たく) | 漫画家。兵庫県出身。1966年7月27日生まれ。1984年『英雄行進曲』でデビュー。『ますらお ―秘本義経記―』シリーズ、『なぎさMe公認』、『クピドの悪戯』シリーズなどの作品を手がける。『クピドの悪戯 虹玉』はテレビドラマ化もされた。
現在、『月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~』が小学館『夜サンデー』にて連載中。『ますらお秘本義経記 波弦、屋島』が少年画報社『ヤングキングアワーズ』にて不定期連載中。
また、新刊『月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~ 5巻』が小学館 (夜サンデーコミックス) から2020年10月12日発売予定電書版は10月1日から発売中
北崎拓 公式Twitter:https://twitter.com/takukitazaki
北崎拓 公式ブログ:『クピドの裏側(出張版)』:http://takukitazaki.blog109.fc2.com/

INTERVIEWER

江夏亜祐(えなつ あゆ) | バブリー系エンタメバンド・エナツの祟り(ex.ビートたけし命名・ジュリアナの祟り)のDr.でリーダー。全楽曲の作詞・作曲・編曲・プロデュースを行っている。にぎり寿司の考案者・華屋与兵衛の子孫。鴨川ふるさと大使。パール楽器製造株式会社エンドースメントアーティスト。