作詞家:及川眠子インタビュー〜Vol.2〜

作詞家 及川眠子氏インタビューの第2弾。昨今問題になっているSNSに対する及川氏の考え方、また8月19日に出版した「猫から目線」について本に対するこだわりと、今後の活動について聞いた。

 

今このコロナ禍で、いろんなアーティストや文化人がインターネットやSNSを通じて様々なことを発信していらっしゃいますが、及川さんにとってSNSの場というのはどんなものですか?

及川 :基本はプロモーションの場であり、私はこういう考えなんだっていうことを発信していく場ですね。あとは「ちゃんと大人が言わなきゃ!」っていうのがあるんですよ。子供に迎合しているのか、今は大人が物を言わなくなってるでしょ?もちろんそれに対していろいろな意見や反対意見もありますけど、その意見に対して「反対だから悪い」って考えではないですね。

 

確かにSNSだからこそ言えることもありますね?他人を誹謗中傷してしまうような人もいるんですけれども。普段繋がれない人とも繋がれるっていうのも大きいですよね?

及川 :私がよくツイートするのが「名前を晒さず、顔も晒さず人を傷つけようとする。その悪意ってなんなんだ?」っていうことです。確かに匿名だからこそ言えることってあるんです。私は名前と顔を晒さないということに対して非難しているわけではないです。「自分が発した言葉に対して責任を取れよ。逃げるなよ」ってことです。有名人や芸能人への誹謗中傷が問題になっていますよね。彼らが酷いバッシングを受け、自ら命を絶ってしまった時、バッシングをしていた人の中で自分の投稿を削除した人たちがいましたが、私はそういう行為を最も軽蔑します。私自身は世の中に食べさせてもらっている人間だと思っているので、顔も名前も晒した上で発言します。どれは作詞家という職業を選んだ私の一つの義務だと捉えているけど、他の人にたちに同じようにしろと強いる気持ちは全くない。だけど立場は違っていても、自分が発進したものに対してはきちんと責任を取るべきです。逃げるというのは単にズルいんですよ。そのズルさを賢さだと思っている。ズルさは賢さではないです。

 

 8月19日に発売された著書「猫から目線」についてお伺いします。今回は写真と詩のコラボ作品になるんですけれども、この本を出版しようと思われたきっかけや経緯はありますか?

及川 :ずっと前から、写真とかイラストと詩のコラボをやりたかったんです。その中で「猫が物を言ったらどんなことを言うんだろう?」って思っていくつか書きためていたものがあったんです。なぜ8行詩だったかというと、私にとって心地よい文字数というのが大体8行くらいだったんです。もともと文字数や形に縛りのあるものの方が得意なんですね。ツイッターも140文字以内という制限があるから楽しいし。その制限の中に言いたいことをどれだけ凝縮させられるか。だから残りの文字数がピッタリ0になった時は嬉しいです(笑)作詞家って常に誰かとのコラボなんですよ。単独で成り立つ仕事ではない。そのマッチングが好きだし、優秀な人と一緒に仕事をすることで、自分1人で作り上げるもの以上のものができる。相手から刺激を受けて今まで自分になかったもの色々な要素を引き出してもらえることもあります。

 

今回「猫から目線」にはとても多くの写真が使われていますが、及川さんの詩と写真をマッチングさせるのは大変な作業だったのではないですか?

及川:これはもう編集者の方にお任せしてました。元々、詩と写真は別々にあり、編集者の方は沖さんの写真を20万点くらい見てます。詩に合った写真をチョイスする作業だけで8ヶ月くらいかかっているので、編集者と次にその写真を詩で組み合わせてデザインするデザイナーさんが一番大変だったと思います。今回の写真はこの本のために撮り下ろした写真ではなくて、すでに沖昌之さんの手元にあった作品なんです。第二弾、第三弾とやっていきたいですけど、まずは今回の本が売れないとね(笑)

 

通常の写真集よりもかなり小さいですが、何かこだわりみたいなものはあったのですか?

及川:そうですね。本のサイズ感もこだわりましたね。バックの中に入れやすいサイズでというのは伝えていました。持ち運びもしやすいように。あとはこの本のこだわりとして、通常の製本だと見開いた時に中央で切れてしまうことが多いですけど「猫から目線」は見開いても1枚の写真のまま。ここはデザイナーの守先正さんが本当にこだわってくれました。

 

今回、YouTubeでは声優の緒方恵美さんが、朗読している動画を1日1本UPしていますが、緒方さんにお願いした理由などはありますか?

及川:誰かに詩を朗読してもらおうというプランが出てきたときに真っ先に思い浮かんだのが緒方恵美さんで・・・。エヴァのシンジ君の声を担当していらっしゃるので交流はありました。彼女がすごいと思うところは老若男女、どんなキャラクターであっても使い分けられる巧みさ。でもその中にはちゃんと緒方恵美っていう軸がある。今回の朗読に関しては緒方さんが読みたいと思ったものを選んでもらい、その都度キャラクターを演じてくれています。彼女に読んでもらったことで、詩と写真だけでは表現できなかった立体感を出してくれたんです。私は声優さんとお仕事をする機会はあっても、ほとんどが歌の仕事で、朗読などの現場に行くことはないんですね。実際にその現場を見て、改めてプロの声優の凄さを感じました。

 

今は空前の猫ブームですし、この状況下であらゆる制限がかかりストレスが溜まったり。癒しを求めている方も多いと思います。

及川 :今のようなコロナの状況下で「不要不急のものは避ける」という風潮になりましたよね?言ってしまえば猫って不要不急のものなんですよ。豪華な食事も、犬や猫も、きらびやかな洋服も同じ急を要するものではない。でも不要不急のものに一番心が癒されるし、心を華やかにしてくれるんです。私はどちらかというと出不精だし、外に出掛けるのもあまり好きではないんですけど、自らの意志で家にいるのと、誰かに自粛しろと強いられるのでは受け取り方も気持ちも違いますからね。

 

及川さんが今度挑戦したいことや課題などはいかがでしょうか?

及川:なかなかハードルも高いし難しいことだけど、今後の課題は「エヴァ作詞家」っていう肩書きを取っていくということなんです。まぁそれほどまでに売れたっていうこともあるんですが、エヴァ作詞家とかアニソンの二兎とか言われることに、やはりどこかに抵抗があるんですよ。ポップスやロック、歌謡曲などあらゆるジャンルも書いてきましたから。歌い手が有名とか無名とかそう行ったものも関係ないです。誰の仕事をしたから凄いとかではなく、どんな仕事をしたかなんです。及川眠子に任せたいという仕事に、いかに自分が力を尽くせるかですね。

では最後に、ご覧いただいている方々へのお知らせなどはありますでしょうか?

この作品は。アラン・カミング主演でとても話題になった映画「チョコレートドーナツ」を世界初の音楽劇にしたもので主演は東山紀之さんと谷原章介さん。演出は宮本亞門さんです。1970年代のニューヨーク・ブルックリンでゲイの男性が育児放棄された障害児を育てたという実話に着想を得て作られたものなので、舞台で使用される楽曲も70年代のヒット曲ばかり。絶対に楽しんでいただける、そして泣ける作品なので、ぜひPARCO劇場に足を運んでもらえたらと思います。

【チョコレートドーナツ公式サイト】

https://stage.parco.jp/program/choco