サッカー日本代表 応援フラッグ製作の裏側に迫る

2018年5月30日(水)に神奈川/日産スタジアムにて『キリンチャレンジカップ2018』が行われ、その後、SAMURAI BLUE(日本代表)応援プロジェクト「夢を力に2018」壮行セレモニーにてサッカーのフィールドと同じ大きさのフラッグが披露された。シミズオクトでは壮行セレモニーで使われたフラッグの製作を行った。フラッグの製作から見えてきたのはいろんな人の意見に耳を傾けることの重要性だった。

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フラッグができるまで

ー日本代表を応援するフラッグを作るのにはどんな経緯がありましたか?

アメリカのメジャーリーグで、アメリカ国旗を広げるのがあるんですが、最初、こういうのがやりたいんだよねみたいな話で始まったんです。それと応援ライブを組み合わせて、日本史上最大のフラッグを作りたいっていうところから始まりました。

ー小さいフラッグをつなぎ合わせて大きなフラッグになっているんですよね

全部で792枚です。一つ当たりの大きさが1.7m×4mで、それを792枚つなぎ合わせてできています。最終的な大きさは96mx56mで、サッカーのフィールドと同じ大きさになります。小さい生地を何枚かに集めて、ブロックにして管理していました。基本は40枚で1ブロック、計19ブロックです。

つなぎ合わせる用の小フラッグ

安全に行うための緻密な計算と実験の積み重ね

ー日本史上最大級の応援フラッグを作るにあたってどういうことをしましたか?

ものすごい大きさなので、「風が吹いたときにどうなっちゃうの?」という話はありました。これだけ大きいフラッグなので風が吹くと、1万キロとか荷重がかかるっていう計算になるんですね。それが飛ばないように重りをかけなくちゃいけない。それを全部人力でやっているんです。したがって、人をどういうふうに配置したらいいのかとか、吹き飛ばされないようになるには何人必要なのとかっていうのを、いろいろ検討しました。

最終的には、こういうフラッグにして、人はこういうふうに配置しましょうとか、本番のフィールドまでどうやって持っていこうかとかを図面から考えたりしました。結局トータル162人必要ですよというのは、シミズオクト で計算して、ほかの会社にも検討してもらって、判断してもらいました。

 

ー未知の大きさのフラッグを作るのに、苦労はなかったですか?

日本国内でも多分このサイズを実際に作ったことってないので、本当にできるのかとか、大丈夫なの?みたいな話がもちろんありました。そこで、印刷をかけていない白いフラッグを作りました。それを実際のサッカーのフィールドで広げてみるんです。実際の持ち方だとか、運び方とか、実際、ちょっと風を入れてみたりして実験しました。実験の日は、風が強かったんですよね。なので、実際にフラッグを持ち上げて風入れてみてどれぐらいフラッグが引っ張られるのかなどを検証しました。

つなぎ合わせた大きいフラッグ

このときに人の配置も検討しました。実際、巻き上げる風の力が一番怖いので、フラッグの中に人を配置したほうがいいんじゃないかとか話しましたね。スタジアムはすり鉢状になっているので、風が吹くとフラッグを下から押し上げる風の力が発生します。(図1参照)それを考えて検討しました。また、フラッグの重さも700キロぐらいあるので、それを運ぶのも実は一苦労でした。大きい段ボールを用意して、その中にフラッグを入れるための台車も特注で作りました。

フラッグにかかる風の負荷の図
図1

 

箱入りフラッグ運搬風景

ー天候や風に左右されるイベントにどのようにして備えましたか?

本番のフラッグをぬらすわけいかなかったので、ブロックごとに縫製したものを実際にぬらして実験しました。このフラッグは水を含みにくいのですが、広げるに当たっては影響がないというのを事前に確認しましたね。フラッグが水を含んだ時に端から引っ張れるかどうかは、実際やってみました。また、水を含んで風を受けるとどうなるのかも実験しました。水を含むと、風の受け方も違ったりするので、考えられる天候を想定して実験して潰していきました。

 

観客から綺麗に見えるために

ースタジアムで見ているお客さんから綺麗に見えるための工夫は何でしょうか?

広げていったときにねじれていたら、だめなので、いろいろフラッグは加工しました。布の周りは人が持てるように、補強のテープを全部付けているんですね。色をわざと分けて、黄色いテープを引っ張れば綺麗に広がっていくよっていうのを、分かりやすくなるように設計したりしています。本番中、テープは持ち手になるんですね。縫製するところと縫製しないところを交互にすることで、本番中の暗い中でも縫製していないところに手が入るようになっているんです。この持ち手もどんな持ち手がいいのかというのをすごく考えました。最初は体操のマットの耳みたいなものから始まって。最終的にこの仕様に落ち着いたという感じです。

フラッグの畳み方も、引っ張っていったときに、ちゃんと伸びるような畳み方があります。その方法で畳んで現場に納品です。また、当日雨が降っていたので、汚れないように養生をしました。また、会場に運ぶ前の置き場所も検討しましたね。さらにこの日はテレビの中継車とか、関係者が出入りしたりするので、バックヤードの取り交わしも事前に図面化して決めておく必要があります。

綺麗に広がるように黄色いテープ

未知な製作物を作る上でのモチベーション

ー日本史上最大の応援フラッグを作る上で不安はありませんでしたか?

正直、一番初めこの話が来たときに、「できるのかな、本当に」という事がまず1番にありました。そこからいろいろ協力会社に相談したり、技術部に相談したりして、作業が進んでいきましたね。私としては、白いフラッグで検証できたという事が大きかったです。白いフラッグでいろいろやったときに、「大丈夫だな。」「何とかなりそうだな」という兆しが見えたので安心しました。自分の中で、「大丈夫だ」って思うまでは、結構プレッシャーがありました。ですが白いフラッグでの実験で道筋が見えてからはもうひたすら現場に向けて作業をしていきましたね。

 

ーこのフラッグ作りを一言で言うとなんですか?

たくさんの人の力を借りたというのが大きいです。僕が代表してやっている感じですけど、一人じゃできない仕事でした。検証したときとかは、うちの部の人、制作管理課の人、10人ぐらいに来てもらって、広げる人たち100人に指示出ししてもらいました。フラッグを引っ張り出すときとか、台車から降ろすときとか、いろいろ人の手がいるんですよね。こういう場面で手伝ってもらったりとかして大変助かりました。多分、僕一人でやっていたら偏った考えになっちゃって、「ああ、そういうやり方もあるか」とかいうのが事前にできなくて、試してみることもできなかったです。考えられる事案は全て洗い出して、白いフラッグで検証してきました。人の力を借りて、考えられることは実際にやってみる、この事が重要なことだと思いますね。

笠原邦広

今回お話しを伺った人

笠原邦広 |シミズオクト イベント・スペース開発部