『羽生結弦選手「2連覇おめでとう」パレード』運営の裏側に迫る

平昌オリンピックのフィギュアスケートで2連覇を果たした羽生結弦選手を祝福するため、2018年4月22日、選手の地元である仙台市にて『羽生結弦選手「2連覇おめでとう」パレード』(以下パレード)が行われた。会場には多くの人が集まり、大盛況だった。今回は、パレードを担当したシミズオクト社員にインタビューを行った。パレードの運営からは人間のコミュニケーションの本質が見えて来た。eyecatch

パレードは打ち合わせと資料作りから始まる

ーパレードをやると決まってからどういう仕事をされているのでしょうか

4年前の同じ場所でのパレードも担当しておりましたので、その経験を踏まえ資料を作るところから始まりました。前回の観衆は92,000人でしたが今回はもっと増えるであろうということで、コースを延ばして観覧スペースを増やすことになり前回と違った要件も増えるので現地の確認に何度か行きました。また、前回同様、出発式をスタート地点で行うことになったのですが、前回は見える方が少なかったという声があって、今回は出発式を行う方向を変えてより多くの方に見て頂ける形としました。(図参照)パレード図表

ー交通規制開始時間の重要性を教えてください

その中で交通規制を何時から行うかという部分は非常に重要でして、観覧場所となる歩道は結構広いのですが、歩道だけですと観衆が収まりきらないので交通規制後、車両の通行が無くなった時点で車道部分にも観衆を入れていきます。極力早い時間から交通規制をかけて観覧する人を早めに車道へ案内し、混雑することなく安全に運営が行えると思っていました。しかし、周辺の交通状況から「そんなに早い時間から交通規制をかけるのは難しい」という判断となり計画を見直すこともありました。

交通規制

ー今回は新たに安全対策を提案されたんですよね。

はい、今回安全対策という面で、2つの提案を行い採用されました。
① スマートフォンを使用した簡易監視カメラ
高所からの撮影でコース全般を網羅し混雑しているポイントなどを本部で把握するという物です。
② 観衆の整理などに使用するカラーコーン透明なものに
不審物をカラーコーンの中に隠されないようにするという物です。実際には2つとも採用となり、観衆の誘導や、テロ対策の強化に役立たせることができました。

ーどのような方が現場で観衆の対応をにあったているのですか

現場で観衆の対応にあたるのは、警備員、スタッフだけではなく、羽生結弦選手「2連覇おめでとう」パレード実行委員会(仙台市、宮城県、宮城県スケート連盟、(公財)仙台市スポーツ振興事業団)も一緒に連携をして行います。今回、実行委員会のご担当者さんは、我々の意見を理解してくれていて、警察との交渉も親身になって行って頂き非常にありがたかったです。警備に対してとても真剣に取組んでくれていたと感じました。

 

想定よりも早い時間に来た観客たちの間で

ー前日から場所取りをしている方もいたとか。

はい、前の日の夜から場所取りの人が結構いて、朝を迎えた時にはコース全般に多くの方がいました。予想通り出発式が行われるスタート地点付近に観衆が集中してしまい、午前中の早い時間から仙台駅や途中の動線上でコースの中盤やゴール方面へ進んで頂くよう案内しました。それでも出発式が見たいという方が多くおり、現場はかなり大変な状態でした。パレード開始直前には、交差点付近などは大変混雑してしまい、空いているスペースへ移動して頂くのが非常に難しかったです。

場所取り

ー当日のスタッフの動きについて教えてもらえますか。

当日は、東北支店や現地の協力会社さんは、7時ごろより現場に入って頂き、警備員、スタッフへのミーティングを行いました。今回の誘導の肝となる観衆を車道へ入れる部分については、東京からスタッフが深夜バスで出発して朝6時ごろ現地に到着。それから、周辺環境の確認を行ってもらいました。また一緒に観衆の対応を行って頂く、実行委員会の皆さんとの連携も必要なため、リーダーの方とシミズオクト側の責任者の顔合わせも行いました。

 

説明を伝えてから行動する

ー人の誘導は言って聞かせると言っても難しいと思いますが、具体的にどのような方法で人を誘導していったのでしょうか

一番いいのは入場規制中という看板で見せるというものです。その他には、「行っても見るところがないですよ」「奥に行った方が見えるところがいっぱいありますよ」という説明をきっちり伝えることが大事ですね。その言い方、伝え方が大切です。大勢の人に伝えるので、あんまり長い言葉で言っても通り過ぎちゃうので、それをいかに簡潔に伝えるかが肝心です。

ー雑踏事故を起こさないためのポイントはなんですか?

観衆の方にこれから何をしますというのをきちっと説明をしてから行動するのが大事です。例えば、歩道で待っている人が、車が通らなくなって、何の説明もしないと、車が通らなくなったから前に行っていいんだと勝手に動き出してしまうというというのはよくある話。今回、外国の方も多く来場されていたので、言っていることが理解してもらえず、動き出してしまって、周りの人もつられて動き出してしまわないかという心配はありました。ですが今回はそのような事は起きなかったので良かったです。

場所取り

 

信頼あるシミズオクトだからできたパレード

ー羽生選手の安全も確保も重要ですが、その上で難しかったことはありますか。

今回は実行委員会さんが警備について非常に力を入れており、ご本人周りの警備もかなり気にされておりました。警察との会議でも「羽生選手の安全が第一」というお話がありました。具体的には、羽生選手の控室が観衆にわからないようにしないといけないとか、そこに観衆が集まらないように注意を払うことですね。また、ゴール後の羽生選手の動きも実行委員会さんと情報共有して計画を詰めて実施しました。

羽生結弦選手

ー今回のパレードで、前回から引き継がれていた部分もあるかと思いますが、引き継がれた部分は全体の何割くらいでしょうか。

8割ぐらいは、前回をベースに計画をしました。4年前のパレードも私が担当をしておりましたし、その前年に同じ場所で楽天の優勝パレードがあり、そちらも担当しました。また、震災のあった年に仙台で『東北六魂祭』という東北の6つのお祭りを一度に集めてパレードをするお祭りが行われました。その祭りは仙台で行われて以降、盛岡、福島、山形、秋田、青森と毎年場所を変えて実施されており、今回もそれと同じチームで対応しました。それぞれの土地土地でいろいろな環境の違いはありますが、ベースとなる物は同じですので、パレードの観衆対応のノウハウがそこで蓄積されたと思います。ノウハウがあるシミズオクトだからできた仕事です。

 

自分の想定や考えが現実になる喜び

ー仕事のやりがいはどこにありますか。

計画からやっていくので、一から関わって、自分の発した、考えたことが現実になって、それがうまく安全に回るということが、一番のやりがいですね。それに対して何を用意するか、何をしなきゃいけないのか、自分だけでできることではないことは人にお願いすることもあります。交通規制の話でも、「時間を取りたいと言ったけど、そうならない、じゃあそれをどうするか」を考える面白さもあると思います。

挨拶

 

人材としての質を上げていくことが大事

ーオリンピックの2020年に向けたビジョンはありますか。

デジタル化や機械化、AIなどが言われていますが、やはり人頼みが大きいです。人の質をあげていくのが一番難しいですが、それを上げていくことで、仕事の幅が広がっていくんじゃないかと思います。ボランティアの人が主で動くことになるでしょうが、その人たちを動かす力のある人というのが全然足りていません。シミズオクトでアルバイトをしている係員スタッフそれぞれが下にボランティアを従えてやるくらいじゃないといけないと思うので、そこのディレクションができる人材を育てていかないといけません。ここ2年というところではやはりそこじゃないかと思います。

ー人のマインドが大切ということですね。

接客業なので、私は何かをやる前に説明するのが結構好きなんです。協力を得るために話をするので、一方的に「こうしてくれ」「こうしろ」みたいな言い方ではなくて、DJポリスのように「みんなの協力がないと事故が起きて興行ができなくなるので協力して欲しい」と言うことが大事なんだと思います。どちらかというと警備は制止をする印象になりがちですが、協力を得る言い方、やり方にシフトしていかないと、うまくいかないのではないでしょうか。そういうマインドを持つ教育をしないといけないと思います。大勢の人を動かすには協力が必要だし、ちゃんと理解してもらうことが重要です。

 

プロフィール

岡本誠(おかもとまこと)
株式会社シミズオクト
第二営業本部イベントスペース開発部
岡本誠