新・裏方ひとすじ シンガポールテレビ国際放送(CNA)日本特派員 石田三千代

女性1人で日本中を駆け回り、安倍総理や小池都知事をはじめとした政治家トップの会見やインタビュー、マライア・キャリーの東京ドーム初ライブ時に単独インタビュー、はたまた被災地の現状や、日本の地方の話題を取り上げるなど、日本の今を世界に発信し続けている石田三千代さん。
その細い体からみなぎるパワーの秘訣とジャーナリストとしての伝える心、そしてお仕事について、イベントマガジンBANZAI発行人の清水佳代子がお話を伺った。

石田三千代さん

石田三千代さん

日本のニュースを世界に発信!

子どもの頃から海外で過ごした経験を生かしてジャーナリストに

Q:石田さんが特派員になったきっかけは?

A:4歳からニューヨーク、中学からブラジル、と海外に住んでいましたが、海外で日本のニュースの紹介が流れる機会は少なく、日本のことをもっと海外に発信できたら良いのに、と思っていました。大学で初めて日本の上智大学に進み日本語や日本の歴史や語学などの教育を受けました。外国人や帰国子女が多い大学なのでちゃんと最初から教えてもらい習得することができました。
また、フリーランスでNHK国際放送(現・NHKワールド JAPAN)のキャスターをやったり、あとはTOKYO FM番組のDJをJ-WALK(現・THE JAYWALK)さんと一緒にやったりしていました。私が本当にやりたかった分野はスポーツなのですが(笑)、ラジオではスポーツもやらせていただいていました。
そんな頃、新聞広告でシンガポール国営の放送局が国際放送事業を立ち上げるのでその特派員を募集していると言うことを知り、シンガポールに面接に行って採用になりました。

Q:シンガポール国営放送の日本特派員は複数人いらっしゃるのですか?

A:私だけです。

Q:シンガポール国営放送はどんなTV局なのですか?

A:CNA(元・Channel NewsAsia)というのはニュース専門チャンネルなのですね。支局はマレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、韓国、北京、上海にあります。それぞれが英語で、優先順位で言うと政治がメイントピックス、その次がビジネス、あとは災害、事件など、次はその土地ならではの文化などの柔らかいネタとなります。
私の場合は、日本の地方も知ってもらいたいと言う気持ちが強いので、月1回は地方に行きニュースを作るということをやってきました。

仕事は企画から本社に映像を送るまで、ほぼ1人で完結

石田三千代さん

Q:お仕事の内容を教えていただけますか?

A:リサーチから取材、原稿、ナレーション、(映像撮影だけはカメラマンを雇いますが、それ以外は)粗編集も含め全部自分でやり、できたものをネットで送ります。音声のミックスなどや完パケ作業は本社です。

Q:企画を本社に提案して採用されたものを取材するのですか?

A:そうです。本社から「各国で同じテーマを特集したいのでお願いします」という時は各国の特派員がそれぞれの目線で企画して取材するということもあります。あとは、大きなトピック、例えば「総理大臣が変わる」などという場合には毎日その話題を本社と相談しながら、さまざまなアングルから取材します。
ニュースの長さは2、3分や5、6分のもの、時には焦点に迫った30分の取材ものも去年は作成しました。その30分番組のテーマは「ひきこもり」でした。

Q:ちなみに開局時の1999年にはインターネット環境はあったのですか?

A:ないです。だから映像または映像+音声を衛星で送っていました。いちいちお金かかりましたよ(笑)。ナレーションの音質は下がりますが仕方なく電話で送ったり(笑)。
今はインターネットがあるから便利。でも、追いかけられちゃうから(笑)。特にシンガポールは時差が1時間しかないので追いかけられますね。

LiveUという中継機材とプロユースのカメラは手元にありますので、いつでも中継できる体制にはなっています。ので、便利ですが辛いです(笑)。

Q:各国の特派員の方々とは親交はあるのですか?

A:よく集まっていました。今はコロナの影響もあり、ちょっと会えないですけど仲良しで、将来はマレーシアあたりで近所に住もうなんて話も出るくらいなのですよ。

Q:仕事は楽しいですか?

A:楽しいですが、辛いこともあります。一番辛いのは、被災地などで、皆さんの話を聞くことですね。もう何も言えない。慰めることもできない。
例えば、2011年の東日本大震災ですが、福島の原発問題は世界的に影響があるかも知れないということで関心が高かったです。
被災地には勝手に行かず、例えばシンガポールを代表して来ている援助団体の方々と一緒に動いたりしました。

Q:仕事の七つ道具ってありますか?

A: はい。こんな感じです。

  1. MacBook Proの大きなサイズのもの。記者会見で例えば総理が何か言った時などに、すぐにその場でニュース素材を送れるように。
  2. LiveU。中継機材。
  3. ボールペン。手書きメモ用。
  4. モバイルWi-Fi。iPhoneでもいいですが通信手段のバックアップとして。
  5. あぶらとり紙。取材でニュースキャスターとして画面に映るので。
  6. 化粧品。あぶらとり紙と同様に欠かせません。
  7. MacBookとの接続コード。バッグの中にたくさんあります。

Q:結構、大荷物ですね。

A:はい。仕事終わりには体が折れ曲がっています(笑)。また、記者は立ちっぱなしの仕事なので肉体労働です(笑)。
選挙などは1日でいろいろな党の演説を回るので大変です。

コロナが世界中を変えてしまった

Q:最近はコロナに関する取材が多いですか?

A:はい。もう各国集中してコロナに関するニュースは発信しています。それぞれの国で対応も違いますし。
2020年は本当ならば東京でオリンピックが行われるはずでした。それに向かって日本・東京への注目度も高まっているのを体感していました。コロナがなければ素晴らしいオリンピックができて、それを世界に発信できたと思うので、とても残念です。
それが今はコロナの取材が多くなって。ダイヤモンド・プリンセス号の中継を横浜でやりはじめ、あとは浅草とか、街でのインタビューも随分やりました。

Q:コロナについての政府や都庁の会見って結構“密”じゃなかったですか?

A:そうそう、最初の頃はマスクもしてないし、結構密でしたよ。でもだんだん方針が変わってオンラインでの会見も増えました、カメラも各社1台じゃなくて、日本のメディア1台、外国のメディア1台とかね。

Q:それでは皆同じ絵になってしまいますよね。

A:自社だけの個性が出せないのでそういう意味ではつまらなくなりました。また、地方への取材も「本当に私が行って良いのですね」と念押ししてから行かなければならず、やりづらくなりました。

Q:東京の新型コロナ感染者数が一時は一桁になったのに、また上がってしまいましたね。世界からは「どうしちゃったの、日本?」とか思われていないですか?

A:思われていますね(笑)。

Q:日本のマスコミって、交通事故とか火事、芸能人の不倫などはよくニュースで取り上げていますが、みんなが本当にきちんと考えなければならないことがあまり取り上げられないという印象があります。
石田さんのような国際派にどんどん攻めて欲しいです。

A:コロナに関しては、日本は本当の意味での“ロックダウン”がないじゃないですか。それを海外に説明するのはとても大変です。
海外の人たちは“緊急事態宣言”を“ロックダウン”だと思っている。逮捕も罰金もないのに“自主的に”日本人がマスクをしたり活動を自粛したり店をクローズしたというのが信じられないのです。
日本人は言われるとみんなやるのです、というのが伝わりにくいですね。それは不思議がられます。それを伝えるには歴史的背景から説明しなければならないのでとても難しい。

海外に目を向けよう

石田三千代さん

Q:今後、国際ジャーナリストという職業に就きたいと思っている人たちに一言お願いします。

A:海外に住んでみてもらいたいですね。もし例えばお父さんが海外赴任になったら、単身赴任も増えていると聞きますが、家族も連れて行ってよ、と思います。観光旅行ではなく、そこに住んで、現地の言葉で喋ってみて人々と触れることがどんなに貴重な体験になるか……。
海外に留学する人も減っていると聞きますが、「せっかく生まれたのだから挑戦してみてよ」と言いたいですね。

Q:ありがとうございました。

石田さんにエナツの祟り考案の飛沫防止パネルBOXをご取材いただいた映像はこちら

石田三千代さんとエナツの祟りとの記念写真

石田さんとエナツの祟りとの記念写真。右端はイベントマガジンBANZAI発行人・清水。

PROFILE

石田 三千代(いしだ みちよ) | 東京生まれ。ニューヨーク、サンパウロで育つ。上智大学卒。 1999年、Television Corporation of Singapore 入社(のちに組織改革でMediacorpに吸収)。Channel NewsAsia(現 ・CNA)が立ち上がり、初代の日本特派員。 CNAはアジア太平洋地域で地上波、衛星、ケーブルで放送中。YouTubeでは無料配信中。

石田三千代さん

INTERVIEWER

イベントマガジンBANZAI発行人・清水佳代子(写真中央)

イベントマガジンBANZAI発行人・清水佳代子(中央)

取材日:2020年8月19日